4話 忙しい時こそ計画的に

17/21
前へ
/236ページ
次へ
***(side 若林 青葉)*** 「いよいよ明日からレク大だね」  ワイワイと浮足立つ生徒が行き交う廊下。  隣を歩く堀米が笑む。 「うん。楽しみだなあ」  私、若林青葉は、まだ多少ぎこちないながらも微笑みを返した。  レクリエーション大会前日。  実行委員達の尽力のお蔭で、準備は滞りなく整った。  貸し出す備品の確認に出向いた堀米と私は、任務を終え生徒会室に向かっている途中だ。 「堀米くんは、テニスに出るんだよね?」 「うん。団体競技も楽しそうだけど、クラスの皆と練習する時間があまり取れなくて」  私が役に立てたことは少なくとも、こうしてつつがなく前日を迎えられたことが喜ばしい。  そのお蔭もあってか、街歩き以来緊張して上手く話せなかった堀米とも、最近は少しずつ自然に談笑できるようになった。  隣にいると少し緊張してしまう、ただそれだけ。  時折頬に集まる熱は、堀米に伝わらなければそれで良い。 「若林さんは確か、借り物競争だよね?」 「うん。私も堀米くんと同じで、団体練習に参加できそうになかったから」  働き方改革で生徒会の負担がかなり減ったとはいえ、毎日クラス練習に参加できるほどの余裕はなかった。  同じような理由で参加競技を選んだ経緯に、互いにクスリと笑い合う。 「応援しに行くからね!」 「嬉しいな。こちらこそ」  ドキドキして顔もまともに見られなかった日が続いていた分、和やかな会話が心地好い。  温和な堀米の隣は、時折心臓に悪いものの居心地が良かった。 「あと、生徒会としての仕事も頑張るから!」  拳を握り意気込みを語ると、堀米が軽く苦笑する。 「あんまり無理はしないでほしいな」  彼の心配そうな声に、反省しつつも嬉しくなって胸がじんわり温かくなる。  生徒会執行部の全員に通達があったのは数日前のこと。  いわく、大会中誰かが何かをしかける可能性がある。行事進行でてんてこまいな実行委員会の分まで、生徒会で目を光らせておこうという内容だった。 「何か異変に気付いたらトウヤに連絡してね」 「う、うん」  挙げられた会長の名に、内心少しだけ狼狽える。  堀米と対照的に、話す機会が日々減っている柚木に対しては、まだ『お似合い』という言葉がちらついて強張ってしまう。  今はそんなことを気にせず業務に専念するべきであるのに。  変な顔をしていないかと頬を押さえる。  そんな私を覗き込んで、堀米は少し切なそうに微笑んだ。 「……もしトウヤに連絡が付かなかったら、僕にでも大丈夫だから」  少し掠れた優しい声で付け加えられる。  柚木の不調は現在に至るまで治っていない。堀米がついていると思えば頼もしいことこの上なかった。 「ありがとう。堀米くんがいてくれるから、頼もしくてすごく安心する!」  感謝を伝えれば自然と破顔する。  堀米は一瞬目を丸くしてから、柔らかく口元を緩めた。 「若林さんにそう言ってもらえると、嬉しいな」  返された甘い言葉に、胸がキュンと跳ねる。  いけない。  浮ついていては明日の巡回に支障が出てしまう。  自意識過剰と自覚しなければ、どこかで足を掬われてしまう。  両頬を叩いた私は、ズンズンと大股で廊下を進んだ。  その少し後ろを堀米がついてくる。  そして終点近くの角を曲がった時だった。  生徒会室の方から、言い争いの声が聞こえてきたのは。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加