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バシッ。
相手のコートにボールが打ち込まれた瞬間、わっと歓声が上がる。
汗を拭いながら仲間とハイタッチを交わす八重野を見て、私は大きく手を振った。
可憐な笑みでサッと手を翳した八重野は、普段の何倍も格好良く見えた。
「きゃー! 倉野くん、アタック最高ー!」
「八重ちゃん、ナイストス!」
バレーボールの試合。コートで戦う仲間をクラスメイト達と興奮気味に応援する。
服装こそジャージの者、普段着の者とそれぞれだったが、揃えて巻いた赤いハチマキが連帯感を生んでいる。日常での統一感のなさが嘘のような、仲間意識に心が躍る。
が、敵もさるもの。
相手の鋭いアタックを受けきれず、コート向かいの白ハチマキの集団が熱気に包まれる。
男子ばかりで構成された白練水仙チームの存在感に、私は思わず唸ってしまう。
男子を中心とした第一グループの試合を行う横のコートでは、女子を中心とした第二グループの試合が行われている。
生徒は性別を問わず、全ての競技に参加権があるルールになっているが、白練水仙高校は男女をきっちり分ける作戦で来ているようだ。
八重野は身長こそ並みいる男子に敵わないものの、経験と跳躍力を買われて男子バレー部員を中心としたチームに加わっている。
長身の男子に囲まれた八重野は目立っていたが、選抜されただけあり他の者に負けない活躍をしていた。
実力。戦略。
様々な要因が絡み合う試合がどう運ぶのか、見ているこちらまで緊張して熱狂してしまう。
味方後衛の受けたボールが遠くに飛んで、反応したアタッカーが滑り込みで球を拾う。
中央に上げられたボール。そのチャンスを逃すまいと、八重野が高く飛ぶ。
バシン。
力強いアタックが、相手陣地に吸い込まれて跳ねる。
とっさのファインプレーに、応援席は最高潮に盛り上がった。
振り向いてウインクした八重野とアタッカーに次々と黄色い声が飛ぶ。
刺激された私は勢いのまま叫んだ。
「きゃー! 八重ちゃん、かっこいいー!!」
「確かに、今のは格好良かったね」
歓声を上げた瞬間後ろから声をかけられる。
聞き慣れた優しい声に、私はビクリと肩を震わせた。
「ほ、堀米くん?」
振り向くと堀米がいつものようににこやかに微笑んでいた。
学校指定のジャージも、お揃いの赤いハチマキもよく似合っている。
途端、目の前の試合状況が吹き飛び、頭が昨日の醜態でいっぱいになる。
私は堀米の袖を引き、集団から体育館の壁際に連れ出した。
「堀米くん、あの! 昨日は色々迷惑をかけて本当にごめんなさい!」
バッと頭を下げる。
そんな私の頭を、堀米は気遣わしげにポンポンと撫でた。
「迷惑だなんて思ってないよ。それより昨日はちゃんと眠れたかい? まだ落ち着かないだろうから、極力無理はしないでね」
掌の温かさと慈しむような言葉が、寝不足で疲弊した身に心地好い。
そのまま浸っていたくなるような幸福感があったが、私はふるふると首を横に振った。
「ありがとう。ほら、堀米くんも八重ちゃん達を応援に来たんでしょう?」
「う、うん」
堀米は少し目を丸くして、そっと手を離した。
それを寂しく思ってしまった弱い心を戒める。
彼は過剰に親切で心配性で過保護なだけなのだ。
他意はないのだと、他に思い人がいるのだと、思い知ったのは昨日のことではないか。
いたたまれない。
私は彼に背を向け、クラスメイトの群れへ戻ろうとした。
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