5話 一人で抱え込む風潮は吹き飛ばせ

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「試合の状況はどう?」  堀米は普段と変わりない調子で戦況を尋ねる。  無難な会話に変えてくれた彼に少し安堵しつつ、私は振り返って説明した。 「今、一セット取って、相手に一セット取られちゃってるところなんだ。三セットマッチだからここを取れたら勝ちなんだけど……」  私は答えながら得点板に目を向けた。  三セット目の点数は十三対十三。大接戦の大詰めだ。  またも両陣営で応援合戦が始まる。  マッチポイントを賭けた戦いは、今まさに白熱している。  どの選手も必死にボールに食らいつき、ラリーが続く。  そんな中、味方が上手くアタックを受け、ネット際の良い位置にレシーブを上げた。  八重野が瞬時に応じ、完璧なトスを上げる。  刹那、アタッカーが反応し高く跳躍した。  バシン!    ボールは鮮やかに相手のコートに吸い込まれていった。  これでマッチポイントだ。  味方陣営の主に女子から、再び黄色い歓声が上がる。 「いやーん、格好よすぎ!」 「惚れちゃうー!」  興奮が押さえきれない彼女達に混じって、私も再び声援を送る。 「八重ちゃーん! 素敵ー! ファンになっちゃうー!」  両手をブンブンと振り、絶叫するようにエールを送る。  横の堀米が微笑しながら顔を覗き込んだ。 「八重のファンになっちゃうの?」 「そりゃあ、もう! 普段はあんなに可愛いのに、こんな格好良い面も持ってるなんてずるいよねえ!」 「八重、中学時代はバレー部だったからね」  そう言って堀米は私の顔をじっと見つめる。  笑顔なのにどこか切なげなその表情に、ぎゅっと胸を絞られる。  昨日も見た顔だ。  押し殺した感情が笑顔に滲んでいるような、複雑な表情。  彼はその顔を崩さないまま、私に一歩近付いた。 「八重は良いなあ。若林さんに、こんなに応援してもらえて」  吐露した言葉に胸が跳ねて、即座に痛む。  甘い言葉が心臓に悪い。   「もちろん、堀米くんのことも応援に行くよ!」  彼を応援しないはずがない。私は慌てて返答した。 「本当?」 「本当!」  両拳を握って強く言うと、堀米はふっと微笑んだ。  切なさの薄れた、心底嬉しそうな顔だった。 「嬉しいな。僕のこと一番に応援してくれたら、もっと」  そう口にして、堀米は私にもう一歩近付く。 「僕は若林さんのこと、一番に応援してるから」  近くで囁かれ、耳が熱くなる。  この人は一体何がしたいのだろう。  そんな言葉をさらりと吐かないでほしい。  柚木が好きなら、あまりそういうことを言わないでほしい。  馬鹿で単純な私が二度と勘違いしてしまわないように。  混乱の最中、コートで一段と大きな歓声が上がる。  万歳しているクラスメイトの様子を見るに、私達のチームが勝ったのだろう。  堀米に与えられた混迷と、勝利の瞬間を見逃した落胆で、言葉にならないショックを受ける。  当の本人は涼しい顔で「パトロールに行ってくるよ」と去っていった。 「青葉ちゃん、勝ったよ! ってどうしたの?」 「え?」 「耳、真っ赤」 「っ!」  駆け寄ってきたクラスメイトに心配され、熱が顔中に伝播する。 「……堀米くんの、ばか」  私は歓声に掻き消されるような小声で、ぼそりと呟いたのだった。
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