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八重野の応援が終わり時間の空いた私は、早々にパトロールへ繰り出した。
このレクリエーション大会を盛り上がったまま終わらせたいから。
立ち止まっていたら余計なことを考えてしまいそうだから。
正義感と私情を併せ持ち、キョロキョロと目を光らせる。
廊下を行き交う紅白ハチマキの生徒達は、楽しげだったり真剣な顔だったり、めいめいにこの行事に打ち込んでいるようだった。
リバーシや将棋の試合会場などを覗きながら、私は順調に校内を巡回していった。
階段裏でコソコソしている生徒を発見したのは、再び一階に降り立った時だった。
白ハチマキを巻いた男子生徒が、物陰で何やら挙動不審にしている。
不思議に思った私は彼に声をかけた。
「あの」
「ひっ!」
背後から声をかけられた男子生徒は、可哀想なほど肩をびくつかせた。
少々不憫だったが私も職務を全うしなければならない。
取り敢えず優しく話を続けてみた。
「どうしましたか? 何か困り事でも……」
語りかけながら彼の持つ巾着袋に目を向ける。
危険人物でなければ良いのだが。
そう思ったのが顔に出ていたのだろう。彼は慌てたように袋の中身を取り出した。
男子生徒の手にあったのは白練水仙高校の指定ジャージだった。
疑問に思いよく見てみると、彼の穿く長ジャージの膝が破れているのに気付いた。
「あの……試合で転倒した時に、破けてしまって……。予備のジャージに着替えたかったんですけれど、どこで着替えようか迷ってしまって……」
彼は眉尻と頭を下げる。
どうやらただ困っている人だったらしい。
私は胸を撫で下ろし、笑顔で彼に案内した。
「それでしたら体育館の近くに更衣室がありますよ。ご一緒しましょうか?」
「あ……」
すると彼は更に困ったように頬を掻き赤面した。
躊躇いながら彼は小声で付け足した。
「あの……自分、ちょっと、集団の更衣室や、男子トイレが苦手で……。こんなことをお願いするのは恐縮なんですが、空き教室とか、どこか人目に付かないところをお借りすることはできますでしょうか……?」
恥を忍んでと言った様子で吐き出した彼は、胸を押さえて俯いていた。
私は「それなら」と案内先を変えることにした。
「なら個室の更衣室を案内しますよ。性別関係なく利用できるので、もしそれで不快でなければですが」
私にとってはごく当たり前の提案だった。
が、一方の男子生徒は、かっと目を見開いて口元を押さえた。
「山茶花には、そんな設備があるんですか!?」
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