5話 一人で抱え込む風潮は吹き飛ばせ

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+++  乾いたグラウンドに土埃が上がり、ボールを巡る攻防が二転三転する。  高く蹴り上げられた白黒のボールを、味方の女子生徒が奪って左サイドをドリブルで抜いていく。 「頑張れー!」 「いけー!」  第二グループ、女子を中心に編成されたサッカーチームを応援する。  隣では先程バレーボールで活躍した八重野が、ハスキーボイスで声援を送っていた。  ハチマキで両耳の上にリボンを作り、同じ位置でツインテールを結い直した八重野は、漫画のキャラクターのように愛らしかった。  フォワードの橋爪を含む赤チームに私もエールを送る。  応援の波を見計らって、八重野が私の袖をつついた。 「青葉ちゃんも折角だから、ハチマキを可愛くアレンジしたらどう?」 「えっ?」  至ってシンプルな巻き方をしていた私は動揺する。  そんな様を見て、八重野はにんまりと口角を上げた。 「わ、私は良いよ。似合わないし、照れちゃうし……」 「まあまあ、そう言わず!」  言うが早いか八重野は俊敏に私の後ろに回る。  そして巻いていたハチマキをしゅるりと外した。 「やっぱりここは王道で……」  八重野はチームに声援を送りながら器用に私の髪を掬い上げる。ハチマキを頭の頂点で蝶結びして、ようやく「よし」と満足そうに息を吐いた。 「後で鏡を見てみてちょうだい。下ろした髪に大きめのリボンが最高に可愛いから!」 「ううう……あ、ありがとう……」  特大の羞恥心で感謝の声が震える。  中学の運動会でも、猫耳型や(ねじ)りハチマキ、リボン巻きなど、可愛いアレンジをしていた同級生への憧れはあった。  イメチェンしたとはいえ所詮私は私。あざとい格好が似合っている自信もなく、ただただ頬を熱くする。  そうこう遊んでいる間に、戦況は良くない方向に動いていたようだ。  少しずつではあるが相手チームにじりじり前線を押し上げられつつある。 「頑張れディフェンスー!」 「守ってー!!」  再び八重野と懸命にエールを送る。  幸い相手のフォワードに突破されることはなく、試合はまたボールの争奪戦に戻った。  一息吐いた私は、少し間を置いて八重野に話しかけた。 「あのね、八重ちゃん」 「どうしたの?」 「この高校って、個人更衣室があるよね? 最初はさすが私立高校だなあと思っていたんだけど、白練水仙高校や白練冬花中にはそんな設備はないって聞いて……」  私は先程のパトロールで聞いた話を、それとなく八重野に振ってみる。 「ただ、ここ最近冬花中でも似たような動きがあるって耳にしてね。生徒会にいた八重ちゃんなら、何か知ってるかなあって」  案内をした男子生徒から聞いた話に、私は何となく興味を引かれていた。  なので雑談として八重野に尋ねてみた。のだが。 「うん、知ってる。知ってるけど……実はそれには、柚木くんと瑞穂ちゃんのお話が関係あるのよ」  八重野は気遣わしげな視線を私に向ける。 「もし聞いても大丈夫そうなら話すけど……」  心臓がどくんと脈打つ。  実は幼馴染だった生徒会長と朝ドラ女優。まさか二人に繋がる話だとは思ってもみなかった。  私は硬い表情でコクンと頷いた。  いずれ聞いてみると決心した話だ。先延ばしにしても意味がない。 「良いのね?」  私の決意を受け取った八重野は、真剣な顔で頷き返した。 「じゃあ、応援の合間になっちゃうけど話すわね。冬花中と……柚木くんの話を」
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