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偉業を成し遂げてなお満たされなかった生徒会長。
恋い慕う相手のための努力が、どれだけ周囲の救いになろうが、肝心の本人に届かないと知った時、彼はどれだけ深く絶望しただろう。
気力に欠ける柚木が、生徒会長になった理由。
それにようやく合点がいった私は、同時に彼に深く同情した。
胸が苦しい。
柚木に思い人がいることか。
柚木の想いが届かないことか。
何が理由かなど分からなかったが、彼の来歴を聞いて、悲しみと哀れみを抱いていることだけは確かだった。
「じゃあ堀米くんは? 堀米くんは責任感の強さで副会長になったのかな?」
気になった私は小声で八重野に尋ねる。
八重野はすらすら語っていたのが嘘のように、急に口ごもった。
「うーん、えへへ、えっと。何というか……愛のため?」
「愛?」
「そう。その……好きな人に少しでも近付きたくて、生徒会の仕事を頑張っていたらしいわ」
少し気まずそうに言うと、八重野はそれきり追加の説明をしなかった。
頭にガンと衝撃が走る。
やはり堀米の思い人は柚木だったのだ。
自己完結の仮説の裏付けを得て、脳内で波が寄せては返す。
柚木は立花瑞穂が好き。
堀米は柚木が好き。
私はそんな二人が気にかかって仕方ない。
堂々巡りの思考に、頭がズキズキと痛んだ。
どこかに出口はないものか。
とっちらかった感情に溺れているうち、ふと私はある疑問にぶち当たった。
「八重ちゃん。柚木くんが中学時代に生徒会長をしていた理由は分かったよ、ありがとう。ところでなんで柚木くんは、高校でまで生徒会長をしているのかな」
腑に落ちないのはそこだった。
今山茶花高校で生徒会長として頑張っても、立花瑞穂には少しも近付けないはずだ。
ムムムと悩んでいると、八重野はコロコロと笑った。
「そんなの、瑞穂ちゃんもこの高校の生徒だからに決まってるじゃない」
「えっ!?」
晴天の霹靂の言葉に、私は大声で反応してしまう。
けろっとした顔の八重野は「ああ」と補足を口にした。
「通信制の方だけどね。瑞穂ちゃんだって正真正銘この山茶花高校の生徒なのよ」
あまりの衝撃に口を開けて固まってしまう。
通学形態が違うとはいえ、朝ドラ女優と同じ学校の、しかも同学年だったなんて。家族に言ったらどんな反応をされるだろう。
ポカンとしているうちに、八重野は説明を締めた。
「だから陣条先輩は、瑞穂ちゃんの役に立つ可能性をエサに、柚木くんに会長職を打診したのよ。でも瑞穂ちゃんはご存じのとおり、全く学校に来られない。柚木くんが最近情緒不安定だったのは、この辺りが原因だったみたいね」
「それは……」
私は返事に窮する。
高校の為に尽くすことが、本当に立花瑞穂のために繋がるのか。
実績を一つも積めないまま、それでも生徒会の仕事に参加していた柚木は、どれほどの不安を抱えていたことだろう。
胸が再び痛む。
私は、本当に柚木のことを知らなかったのだ。
八重野から話を聞いて、そのことを深く深く痛感したのだった。
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