半身不在

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 僕と福山通はいわゆる幼馴染みというやつで、付き合いは小学校入学前に遡る。全く興味のない幼児向けの体操教室へ見学に連れて行かれたとき、やっぱり帰りたそうにしていたあいつに声をかけてみたのがきっかけだった。  結局、僕も通も親に無理矢理通わされる羽目になった。運動嫌いでそれほど社交的でもない僕らは、なんとなく教室に馴染むことができなくて、お互いの境遇を同情しあい、すぐに打ち解けた。  小二でやっと教室をやめられた後、親交は途絶えたのだが、中学で再会して更に仲良くなった。その頃の僕に友人が増えていたのに対し、通には僕以外に友達と呼べる相手はいないようだった。体格は随分と成長したのに、引っ込み思案で、他人と話すのが苦手なところは、幼少期から一つも変わっていなかったのだ。  そんな通から「新しい友人ができた」と聞かされたときは、本当に驚いたし、嬉しくもあった。高校進学で別々になってすぐのことだ。  どんな奴かと興味本意で訊いてみれば、女の子だというから更に衝撃だった。会わせろよーと冗談混じりに言うと、自分と同じく引っ込み思案で人見知りが激しいから、会わせるのはまだ勘弁してほしい、と照れながらも真面目に返された。僕も無理に会いたいとは思わなかったし、通の意思を尊重することにした。  通の話にその女友達が登場する度に、ぼんやりしたイメージだけの存在だった少女は、顔を知らないのが不思議なほどよく知る存在に変わっていった。頻繁に話題に上るその人が通の恋人になるのは必然的で、実は付き合うことになったと白状したときのあいつのデレっぷりなんかは、10年近く経った未だに忘れることが出来ない。  その恋人というのが、宮野キリだ。  通とキリは、大学生になって親元を離れると同時に同棲し始めた。その頃にはもうキリとその両親との確執は修復不可能な状態だったそうで、彼女が家出同然に通の部屋に転がり込んだというのが正しい。  それがきっかけになったのかどうかは分からないが、「引っ込み思案で人見知りが激しい」はずの彼女は、徐々に奔放な振る舞いを見せるようになっていく。話を聞く限り、通にベッタリで、他に友達もいなさそうなイメージだったのが、何も言わずに一人で出かけたり、通との約束をすっぽかしたりするようになったのだ。その度に相談の電話が来るのだが、会ったことすらない彼女について僕ができることと言えば、ありきたりな助言と気休めの励ましくらいなものだった。そのうち彼女は失踪を繰り返すようになり、今に至っている。
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