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宮野キリが居なくなったと、福山通が連絡してきたのは三日ほど前だった。
電話の向こうの憔悴しきった声は、心当たりをすべて当たってみたが見つからない、と溢していた。僕は内心、またか、とうんざりしながらも、心配しているような声色で応じた。
「実家には訊いてみたのか?」
『いや。知ってるだろ、あいつは親と折り合いが悪いって』
「そうだな…じゃあ、僕の方でも探してみるから」
『頼む。世話をかけるな…』
気にすんなと言って電話を切ったが、正直、探してやろうとは思わなかった。と言うのも、キリが行方をくらますのはこれが初めてではないし、一週間もすれば何事もなかったかのようにひょっこり帰ってくるからだ。失踪の理由も無茶苦茶で、「通が構ってくれないから北海道まで蟹を食べに行ってた」とか、「野良猫特集番組を録画しといてくれなかったから、リアル野良猫探しの旅に行ってた」とか、理解不能な本人の気まぐれだから予測しようもない。
だいたい、探そうが探すまいが、必ず帰ってくるんだから心配するだけ無駄なのだ。どうせ今回も数日したら、けろりとした顔で姿を現すに違いない。そう思っていつものように、この三日ほどを普通に過ごしていた。
だから今、僕は初めての展開に心底驚いている。
『通が居なくなったの』
電話口の宮野キリは、確かにそう言った。
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