ヒトナミ

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 今日も僕は人混みに揉まれている。 某スクランブル交差点。 ここは一日50万人もの人が通行するという。 僕はその中の一人だ。  今日も僕は人波に揉まれている。 押し寄せる人と人との間をすり抜けて、僕は毎日通勤する。 意味など考えず、ただ黙々と。 僕はそんな一人の人間だ。    今日も僕は人並みに揉まれている。 ああしろ、こうしろと言われたことを、ただ黙々とこなす。 意味など考えず、ただ、淡々と。 僕はありふれた人間だ。  今日も僕は無気力だ。 子供の頃は、なりたいものがあったし、したいことがあったなんて言ったら嘘になる。 昔から僕は無気力な人間だった。    今日も僕は人並みだ。 子供の頃、ほんの一瞬だけ研究者になりたいと憧れた。 でも、あれは天才にしかできないんだ、僕じゃ無理だ、と諦めた。 人並みに生きて、人並みにものを考えようと思った。  今日も僕はヒトナミに揉まれる小さな人間をやっている。
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