たとえば

2/17
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
駅前は何時も人波で溢れ返る。 これだけの人が、流れ行く先はどこなのかと疑問を抱く程に。 目の前を行き交う予想以上のカラフルな色彩に軽い目眩を覚えつつ、これでは約束の時間に遅れてしまうと危惧した相馬は、左腕に着けたスマート・クロノを口元へ近付けた。 「ツー・カー、透と葉多に少し遅れるって伝えて」 送信しましたと流れる文字を小さな文字盤に読み取り、さてどうしたものかなと考える。目的地に着くには、この人ごみを掻き分けて進まなければならない。しかもほとんどが女性ばかりだ。男性の身では、正直言ってこの中へ飛び込んで行くのは怖じ気付く。 しかし、今日に限ってこの混雑はどうしたものかと疑問が首をもたげるのと、クロノからの振動が伝わって来たのは同時だった。 やや大きめの、腕時計サイズの画面へ視線を落とせば返信が表示されている。流れる文字を追ってもう一度口元に寄せたクロノへ告げる。 「ツー・カー、透に通話OKか伝えて」 すぐに『いいよ』と返って来た応答に、こりゃ向こうもこの人出に押されてどこかに避難しているなと気付く。 「今、どこ」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!