たとえば

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「時計台。葉多と一緒」 待ち合わせに指定していた場所だ。どうやら先に二人は着いていたらしい。 「Gメンズのゲリラライブだって、これ」 身動きが取れないと困り果てた声色から伝わって来る。道理で女性の姿が多い訳だと、通り過ぎる華やかな人々に視線を向け、流れが一様に時計台方面へ向かっていると確認し直す。いそいそと歩きながら化粧直しをしている人も居て、周りに迷惑だろうと呆れつつも、その器用さには奇妙にも感心さえ覚える。よくぶつからないものだ。 ライブが行われるのは、時計台のすぐ隣に作られている小さな屋外多目的ホールだろう。 流れに逆らって歩くのは、人を掻き分けて先に進むよりも苦労すると容易に想像が付く。 「三十分位で終わるだろうから待ってくれないか。それから合流しよう」 ネットで情報を拡散し、水面下では警察やライブを行う場所の市長等に根回しを丁寧に行って、現地での混乱を抑え込んで居るグループだ。時間も正確に予定通りに進めて収める手腕を持つから、一部に迷惑と言われながらも人気の方が遥かに上回っている。 神出鬼没を謳い、同時にテレビでの活躍も凄まじく、彼等のゲリラライブは俗に『降臨』と呼ばれている。 「了解。でも待ち合わせ場所、別にすれば良かったね」 「悪いな、こっちがもう少し早く出てれば良かったんだけど」
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