たとえば

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「相馬君は悪くないよ。普段なら充分間に合う筈だったんだ。情報の取捨選択に甘さのあった俺等の負けさ。男子単騎じゃ、女子の群れに突っ込む勇気は無いだろ。そっちもなるべく近くで待って、終わったらすぐに来て」 割り込んだ陽気な声に『OK』と告げると、そこで通話は途切れた。 こうなったらライブを楽しむかと思うが、既に押すな押すなの状態になっている人だかりへ、葉多の指摘通り単身で混ざる勇気を相馬は持ち合わせていない。 黄色い声に掻き消され、歌声だってまともに届いてこないだろう。今をときめくアイドルグループの降臨に鉢合わせたのはラッキーと思えたがそれも一瞬、予定が狂っただけだ。 別の思考に沈もうと相馬は、不満に染まりそうな自分の意識を切り替え様とする。だが、降臨する内の一人が公言してはばからない台詞を思い出し、一つの方面を自然と考えてしまう。 そう、例えば。これ程の人ごみの中でも互いに惹かれ合うのがαとΩだと。 ややこしい話だ。人の進化の過程で起こった分化と再びの統合が引き起こした男女の性以外に在る三つの性の成り立ち。 その関係は未だに人の社会に混乱を呼ぶ。βである自分には関係が無いだろうと思っていたが、大学生になり交友関係が広くなった途端にαともΩとも知り合い、真剣に考えなくてはならないテーマの一つだと認識し直していた。 専攻が薬学科であるのも関係する。 稀少を通り越し、最早絶滅種とまで囁かれる存在が友人の一人だと知ったのは薬の為だ。
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