たとえば

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空間へ染みる様に広がった歌声は僅かな時間で充分に人々の視線と興味を引き寄せ集め、そこから一息に転調し、リズミカルな曲調に変わると共に三人の一糸乱れぬ歌と踊りが披露され始めた。 追随し踊り出す、コアなファンとおぼしき一部の観客。 薄気味悪さすら抱く程のそれと、身動きの取り難い人達のリズムに乗った手拍子が音楽の一部となって辺りに鳴り響く。 熱狂。 打ち鳴らされる音は心音となり、一つの巨大な生物の拍動と化して熱く大気をうねらせる。 相馬の左腕に振動が伝わって来たのは、元々、雑踏への耐性が少ない自分の性質を自覚しながら縁石にしゃがもうとした時だった。 「ヤバイ、透君が」 甲高い声援に混じり伝わる言葉から何が起こっているかを理解した。 ヒートが強制的に引き起こされているのだと。 有り得ないと否定しかけたものの、小さな舞台に『降臨』し、それを映し出す大画面上で歌い踊るアイドルグループの一人がαだと世間には知れ渡っている。 相馬の背筋を悪寒が走り抜けた。
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