0人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや……その~」
前日に二万円を入れたはずだが、財布に諭吉さんの姿はなく樋口一葉が微笑んでいた。どうやら入れ忘れてしまったらしい。チケットを買う時にそこまで確認していなかった。
「私も手持ちはありますので大丈夫です」
ことりさんはそう言ってサッと諭吉さんを出す。
「おつりは6950円です」
その時にはことりさんは財布をしまっており、僕が受け取らざるをえなかった。
「え……っ? 悪いよ……」
「大丈夫ですから」
そう言ってことりさんは笑顔で交わした。
映画の内容は、ごく普通の男の子の同級生の一人に、生まれつき声に障害のある女の子がいた。彼女は手話を通じて会話を試みるも、勉強嫌いな男の子には通じなかった。
実は女の子は男の子に好意を寄せているが、卒業しても伝わらないまま時が経過していくのだ。そんな導入から入る。
全編に「伝える事の難しさ」をテーマにしながらも、障害者も健常者もボーダーレスになる事を願って作られた作品だ。
後半に、女の子が「こんな声だったら……」と妄想して口パクで歌うシーンには、女の子の願望、希望、想いが凝縮されて映像美と合わせた丁寧な演出にグッと来るモノがあった。
ふとことりさんを見れば、涙を滲ませているような感じにも見えたのが印象的だ。
僕は話題作よりも、こちらの方が強い感動を覚えた事を記憶している。
最初のコメントを投稿しよう!