今夜だけは抱きしめて

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「今日俺に相談したいことというのは?」 「あの、私……」  うつむいて震えている遙の手にそっと手を重ねる。 「どうしたの?」 「私、赤ちゃんができたの」 「えっ?」  しばし言葉に窮していたが、 「俺との子どもなんだね」  遙はこくりと頷いた。 「妊娠に気づいたとき、どうすればいいかわからなくて……でも、友達が相手の人のことが好きなら、きちんと二人で話し合いなさいって」 「遙は俺のことが好きなの?契約のことを盾に俺は遙にひどいことしたんだよ」 「ずっと忘れられなかった。秀一さんがいなくなった時、心配で何度もアルバイト先に行ったの。仕事を辞めたことしかわからなくて……高校の始まる時間に、秀一さんがいないか校門のところでずっと待っていた。それでも姿が見えなくて、そのうち、探すことにも疲れてしまって。だから再会したときすごく嬉しかった。どうして自分が恨まれているのかわからなかったけど、もし秀一さんが私を抱くことで救われるのならそれでも構わないって。でも、兄の話を聞いて、自分が側にいては駄目なんだって思うとつらくて……」  儚げな遙を秀一は抱き留める。 「俺も遙のことを忘れたことはなかった。君のお兄さんとのことがあって荒れた時期もあったけど、今の社長に拾われて、どんな逆境に会おうとも、それを跳ね返すだけの力をつけて来れたから。遙のこと愛しているよ」  そう言って、速水は遙の足下にひざまずく。 「遙、俺と結婚してください。俺は遙と赤ちゃんを絶対守り抜くから」 思いがけない秀一の言葉に、これまでの緊張がとけて、涙がこぼれる。 「お願いします」  遙はそう言って、秀一を抱きしめた。
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