王都

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「お前、竜騎士って無茶だろう」 「まさかアザレートに行くつもりなのか。やめとけ、アザレートも竜の山もヤバイって」  盗賊たちは最初の目的を忘れ、王宮の人々と同じ反応をした。  ひとしきり皆が反対の声をあげるのを、ジュセウスは微笑みながら聞いていた。その言葉の奥にある自分を案じてくれている気持ちがうれしかったのだ。  そんなジュセウスの様子に匙を投げた盗賊たちは、今度は引き止めるかわりに、知っているわずかな情報を与えてくれた。 「アザレートにブラックタイガーを使役する戦士が住んでるって話だ。頭のいい獣を馴らすのは力だけじゃ無理だ。特にブラックタイガーは人を見るからな。そいつなら他のならず者らと違って頼れるはずだ。運よく出会えるよう、祈っててやるよ」  ジュセウスは心からの感謝を伝え、彼らと別れた。  ジュセウスの後ろ姿を見送る男たちの脳裏に、なぜか各々の故郷の光景が蘇ってきていた。 「俺、大金稼いでからじゃねえと帰れないって思ってたんだけど、なんか無性に田舎のお袋が気になってきちまった」 「王宮騎士になるっていきって出て来たから、なれなかったってすごすご戻るのはみっともねえって思ってたけど、それって、俺一人、しょうもねえ見栄はってるだけなんだよなぁ」 「出戻ったことを、村の奴らにちったあバカにされるだろうけど、家族は、働き手が増えるって喜んで迎えてくれると思う」 「俺は、結構がんばって磨いた剣を捨てるのが惜しいって思ってたんだけど、それでこんな事してちゃ、余計にみっともねえよなぁ」 「ああ、クワやカマを振るって力仕事をして…。そうして家族に楽をさせてやることは、王宮騎士じゃなくても出来るもんな」  大きな成果を求めていたのに挫折し、くすぶった思いが消化できずに荒んだ選択をしてしまっていた。  落ちるのはたやすく、一旦落ちたらもうまっすぐに前を見ることが不快になっていた。そうして、自分たち以外の人を妬み嫉んで、奪うことに罪悪感を抱かないよう、己を偽っていた。  しかし、自分たちよりも遥かに遠く高い所を見ているジュセウスに出会い、嫉妬や羨望とは違うものが胸の内に芽生えた。  ジュセウスの青い瞳が、星の精霊を敬うこの大陸の人々に、なぜか郷愁の念を抱かせる力を持っていたからだ。  その後、ジュセウスが通った街道筋で、いくつかの盗賊団の姿が消えたという報告が王都に伝わった。そこにジュセウスとの関連は報告されていなかった。ただ、何者かに征伐されたのではなく、ただ消滅した、とだけ報告されたのだった。
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