帰還

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 やっと通された謁見の間は昼間だというのにひと気がなかった。しばらく待っていると、恩師バプテストが駆け込むように入ってきた。 「よく戻って来た、ジュセウス」  再会の喜びは、彼の方がジュセウス以上に大きいようだ。固い抱擁の後、ジュセウスの姿を上から下まで確かめるように眺めてからバプテストは言った。 「随分たくましくなった。旅の成果は十分にあったと見える。生きて戻ってくれて何よりだ。王も喜んでくださるだろう」 「王にお会いできるのですね」  門番の態度に続き、この謁見の間の様子もおかしかった。 「城の空気が悪くて不快な思いをさせたか。それとも竜の事を言っているのか。それならば心配はいらんぞ。王は確かにお前に期待をしておられたが、それは竜騎士の件ばかりではない。そなた自身に期待を寄せておられたのだ。こうして生きて帰り、王宮でお仕えするのも王の御為になる。わたしもお前の帰還がどんなにうれしいか」  ジュセウスがアザレートへ旅立って、三か月。その日数でアザレート往復はできない。となると、竜を見つけるどころか、アザレートへたどり着けなかったと、バプテストは判断したのだ。  しかし、擦り切れた衣や、顔や手の傷痕から旅の苦労を察し、ねぎらってくれているのだ。  バプテストの心遣いにジュセウスは、よそよそしく感じていた城への不安が溶けてゆくような気がした。  そんな思いと、かつて訓練所で自分を鍛えてくれたバプテストの雄姿がジュセウスの脳裏に広がった。すると、それまで彼の肩で目を閉じて体を丸めていた、猫くらいの大きさのトカゲのような生き物が、隠していた羽をフワッと広げた。  それは、蝶の羽化をみるような神聖な優美さだった。  まっすぐに首を伸ばし、静かに開いたその生き物の瞳のは不思議な色をしていた。光の差し込む角度で金にも銀にも見える淡い紫。 「翼を持つトカゲ。こんな生き物は初めて見た」  バプテストは我知らず、そんな言葉を口に出していた。
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