出会い

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 小さな町に二軒しかない食堂の遅くまで開いている方。仕事を終えた町の人々でごった返していた夕食時が過ぎた今、酒に酔った男たちだけが残って、注文の品を運ぶ店の女をからかって品のない笑い声をあげていた。女の方も、不快さを声や顔に出してはいるものの、本気で怒るわけではなく、追加の注文をとってうまく商売をしている。  ジュセウスは、その平穏な光景を見て胸の内で安堵のため息をもらした。  この町の手前の森に、かなりの数の魔物が巣くっていた。だが、町の中はまだその闇に侵されていない。森の魔物は退治したので、もうこの町は大丈夫だ。間にあってよかったという安堵だ。 「おい、チビすけ。見かけねえ面だなぁ。どっから来た」  酒臭い息を吐きながら、一人の男が近寄ってきた。  北に行けば行くほど旅人は珍しい。また、都の恩恵も薄くなり、どうしても王へ反感を持つ者が増えてくる。王都のから特命をうけて北へ向かっている彼の素性を明かしたら不要な騒乱を招く可能性もあった。 「南の方です」  そっけない返事だが、それに添えられたジュセウスの人懐っこい笑顔が、男の警戒心をあっさりと解いた。 「南か。ならここらへんの寒さはこたえるだろう。これを食え。体があったまるぞ」 「おい、ピート。おめえ、そんなすみっこで何やってんだ」  一人二人と男の知り合いが集まってきた。そして、店を閉める頃には、ジュセウスのまわりは陽気な笑い声でいっぱいになっていた。 「宿屋になんか泊まらずに俺のうちへ来い。ちいとばっかし狭いがな」 「ちいとだとぉ。おまえんちで寝るくらいなら野宿の方がましってもんだぜ。俺の家にこいや。ばあさんと二人っきりだから気がねはいらねえ」 「そんな寂しい家に客を招くなよ。俺んちにこい、兄弟やらガキどもやら大所帯だ。一人増えてもどおってこたあねえ。うちこそ気がねしなくていいさ」  みなが口々にジュセウスを誘った。 「ありがとう。でも、もう教会に荷物を預けてあるから」  この大陸の教会や神殿は、旅人に無償で最低限の寝床を提供してくれる。それに、ジュセウスには節約とは別にもう一つ、教会の方が良い理由があった。町に入ってからずっと、体を小さくして人に触れないように気を張っている友の負担を和らげなくてはならないのだ。そのためには、教会のようなひとけの少ない、そして住んでいるのは、平常心を心掛けて修行をしている神官や修道士という環境が好ましいのだ。  しつこく誘ってくる男たちをどうにか断り、ジュセウスは、村にひとつだけの小さな教会へと向かった。
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