王都

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王都

 武力で大陸を統一した偉大な先王が残した功績の一つに、多くの若者に夢と希望を抱かせていることがある。  それは、すべての民に王宮騎士になる機会が与えられる訓練所の創設。  この訓練所の入り口は、常に大きく開かれていた。来る者のためにも、去る者のためにも。  王宮騎士になるには、まず訓練所の設備を自由に利用することが許される二年間のうちに、十数種に及ぶ格闘技の鍛錬と兵法の講義と実技を履修し、一番得意の武器で訓練隊長と対戦して、勝利しなくてはならない。その試練を経て、さらに知力の試験を受け、文武ともに優秀と認められた者だけが王の前で騎士候補として名乗りを上げることが許されるのである。  身分を問わず得られる機会ではあったが、実際は、たった二年で成果を出せる者は少なく、結局は貴族や裕福な商家の子弟らが、訓練所に入るより前から勉強し鍛錬もして資格を得るのが大半だった。  アラケウス・ハロルド二世は、赤い髭をたくわえた恰幅のいい男だった。武勇で名高い父王に比べると性格は穏和だが、父親から継いだ地位ではあっても、この広大な大陸を統一する王国アルアバイヤの主である、人の上に立つ者の風格を全身から漂わせていた。 「我らが偉大なる王ハロルド陛下。わたくしジョン・バプテストがソードマスターの名において、本日、ビスレムのジュセウスに騎士候補の資格を与えました事をご報告致します」  王宮騎士の制服を身にまとった壮年の男が、王の前で朗々と宣言した。居並ぶ重臣たちも今一度背筋を正してソードマスターの後ろの少年に目を向けた。 「よく参った、ジュセウス。辺境の出だというのに、幼い頃から教育を受けている名門の子弟らに劣らぬ知識と腕前。そのうえ二年の期間を与えられているにもかかわらず、わずか七か月で全ての課程を修了したとは大したものだ」  ジュセウスは恭しく跪いて応えた。 「お褒めのお言葉、有り難く存じます。これまでの苦労が報われました」 「さて、王宮騎士になるための修行の地だが、その方の腕前はわが国一の剣の使い手バプテストが認めたもの。もうそれ以上の鍛錬の必要もなかろうが、一年間は他国で修行するのが決まりじゃ。どの地に行きたい。そのほうの希望を聞いてやるぞ」 「アザレートへ行かせて下さい」  周囲の人々がざわめいた。ジュセウスの隣にいる師すら、彼らしくもなく動揺を露わにしていた。
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