帰還

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帰還

 蕾が段々と膨らみはじめ気の早い鳥は梢で歌い、野原に生命があふれ始めていた。春の訪れとともに長い旅が間もなく終わる。花に覆われた丘の向こうに白い石が整然と積み上げられた長い城壁が見え始めた。懐かしいインスレンの都だ。  この半年ほどの間、ジュセウスはいくつも町や村を訪れ、山を越え谷を越え、厳しい冬も旅空の下で耐えた。その間、幾度も魔物に襲われた。その魔物たちとの戦いで、ジュセウスはさらに強くなっていった。  また、町に立ち寄るたび、村で休むたび、出会った人々から知識を得、好意を得ていった。みな、別れ際に同じようなことを言った。 「幸運を祈っているよ」  祈りには力が宿る。下等な魔物なら、大勢の祈りの気だけでジュセウスに近寄ることが出来ないほどだった。 「謁見をお願いします。ジュセウスと申します」 「王は、謁見をなさらん」  門番はそう言うと、取り次ぎもせずに彼を追いかえそうとした。 「これは王より授かった剣です。ジュセウスが帰ってきたと王にお伝えください」  そう言って三ツ星の紋章入りの剣を見せた。  数人の衛兵が集まってきて思案した末に、一人が城内に入っていった。 「しばらく待て」  紋章の意味をインスレンの城に使えるものが知らないはずはない。王の信頼の証を見せてさえすぐに入城を許されないのは異常な事態だ。ジュセウスの不安を感じ取ったジェーンが、彼の肩の上で小さく身じろいだ。 
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