蝶のように

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 旅商人夫婦が立ち止まっていることに気付いた野盗たちが、木々の間や草むらから、わらわらと姿を現し始めた。 「これからどうなるのか読めるか?」  信長が至近に居るこの場面で、吉兆の異能はどこまで働くのか。 「出たとこ勝負 の少し先ぐらいは」  あまり嬉しくない予想が的中した。 「であるか……」  これは、戦闘になると厄介なことになるということだ。吉兆は瑞兆の言によれば、怪我したり命を落とし得る存在なのである。  位置的に信長の七八歩前に居た吉兆が、野盗たちに向かって背負っていた荷物と金子を投げ出した。 「金品は全て置いて参ります」  思ったより大きな声だった。 「だから 命だけは……」  人影は尚も増え続け、見える範囲で二十人を数えた。 「そこを そこを通して下さいまし」  吉兆の必死の懇願も、無駄であろうと信長は思った。身をやつしているとはいえ、隠し切れない艶やかな美しさは人の域を超えている。  この荒くれ者たちが、吉兆ほどの女を黙って見逃がすはずがない。
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