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「うわっ!」
服を引っ張られた少年は、すとんと地面に座り込んだ。
「あっ!」
つかんでいた私もいっしょに、腰を下ろした。
手をついた草むらに、何か動く物があった。
「ひゃっ! 虫!」
さっと手を引っ込める。それは、青い3㎝ほどの虫だった。
「虫、嫌いなん? この虫こそ、何もせんよ」
少年はおもしろそうににっと笑うと、虫を捕まえて、ヒョイと自分の手の平にのせた。
「何もせん?」
私はおそるおそるのぞき込んだ。もぞもぞ動くその虫は、濃い空色の体に、適当に墨を落としたような模様があった。長い触角は、ここはどこかと探るように、左右、グルグル回して違う動きをする。その触角も青く、黒い模様は粘りのある墨を点々とつけたようだ。
「これは、ルリボシカミキリだよ」
私は、何もしないとわかって、そんなに怖くなくなった。けれども、本当に自然の中で、普通に生きているのだろうか、と疑問に思った。
「何か、おもちゃみたいや」
「ガチャポンか何かから、出てきたみたいに見える?」
バッタが緑色なのは、草と同じ色にして、敵の目をくらますためだ。だから、その体の鮮やかな青さが信じられなかった。
「うん。それに、こんなに青かったら、すぐに見つかってまうよ」
「この青い色が、この虫の作戦なんや」
少年は、なぞなぞをしかけたように、いたずらっ子っぽい目をした。
「何で? わからんよ」
私は口をとがらせた。私は虫のことは詳しく知らない。不利だと思った。
「ほかの虫とあんまり違う派手な色やから、オレのこと食べてもおいしくないよって言ってる」
「言ってるの?」
「ああ、言わんか。虫やもん、しゃべらんもんな」
少年は大口を開けて、はははと笑った。私もつられて、くすくす笑った。
すると、ルリボシカミキリが、羽をパカッと左右に開いて、つっと飛び去った。
「あっ! 行ってまう!」
2人で、その姿を目で追った。
「仕方ない」
少年は、さっぱりとした顔をしている。
「あんなに青いんやから、すぐに見つけられる?」
私はもう一度、じっくり見てみたくなった。
「さあ、珍しい虫やから、なかなか見つからんかも」
「え? 珍しいのん?」
「うん。ぼくも、見たのは2回目」
めったに見られないのに、もったいなくないのかなと不満に思った。
「ちゃんと捕まえておけばよかったのに」
「うーん。でも、自分かって知らんとこ連れてかれたら、嫌やろ?」
それを聞いて、またにわかに心配になった。
その時、遠くの方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
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