はるのとなり

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
朝、目が覚める。いつもの朝。いつも通りの朝。それなのに、なぜ、違和感があるのだろう。 しんと冷えた部屋の中。シングルベッドの中で、左側によって寝てしまう癖。寒いなら真ん中で眠ればよいものを、癖とは恐ろしいもの。たいして長い時間でもなかったのに、いつの間にかついた習慣は、簡単には消えてくれなくて。 ベッドの右側の空間。違和感の正体。 そこにぬくもりがないことに、ふとした瞬間に気づいてしまう。気づいてしまうと、寂しさとも空しさとも違う、言葉で表現できない感情がこみあげてくる。 今までに戻っただけのはずなのに、一度知ってしまったぬくもりは、しつこく意識の奥に、心の中に、こびりついて離れない。 罪な人だ。 こんなにつらくなるなら、知りたくなかった。 教えてくれるなら、消えてしまうなんてしてほしくなかった。教えるだけ教えて居なくなるなんて。 思っていても仕方がない。自分のぬくもりを残す布団から抜け出し、コーヒーを淹れるためにお湯を沸かす。食パンをトースターにセットし、その間に顔を洗う。 いつもの朝。いつも通りの朝。 テレビでは世の中のどこかで起こった悲惨な出来事を伝え、試合の結果や天気予報がながされていく。 ふと、目を向けた窓の外。 やけに明るいと思っていたら、雪が積もっていた。一面の白。 桜の木も、白い雪を咲かせている。 あの桜の木が、淡い薄紅色に染まるとき。 根拠のない自信。ひょっとしたら希望なのかもしれない。 淡い薄紅色に染まるとき、空いているベッドの右側が埋まる、そんな気がする。 それは、きっと。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加