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餅は結局、翌朝汁に入れ直して雑煮にした。
毎度のことながら、酒を飲まなくても鬼は上機嫌で支度をしている。二人ぶんを椀によそい、揃って食べる。
食べ終わったとき、遠くで烏の鳴き声が聞こえた。
「あの…」
「ん?」
姫が、遠慮がちに鬼に聞いた。
「ゆうべ私…何かしましたか?」
ん、と茶を飲みながら鬼は答える。
「酔っ払って押し倒してきた」
「…」
結局そのまま囲炉裏端で寝たらしく、姫は起きたら大の字になった鬼の真上に丸まって寝ていたのだ。さすがに体を動かせなくて凝ったのか、鬼は首に手をやり2、3度頭を回す。
「…やり直していい?」
「え、その…」
姫は真っ赤になり口ごもっているが、鬼は座ったまま、ずいっと一歩進み、顔を寄せた。すでに目が据わっている。
「どこまで…覚えてる?」
「えーと…」
照れ笑いをしながら顔を逸らそうとした姫の顎に、鬼は指を添え軽く自分の方を向かせ、その小さな唇を親指でなぞった。
「これは?」
「…ちょっとだけ…」
姫の言葉が終わらないうちに、鬼は唇を重ねようとし、姫は慌てて押し退けた。
「待っ、て、下さい…!」
「散々待ったぞ。なあ、もういいよな、な?」
子どもの駄々のように、鬼は姫に詰め寄る。姫はたまらず狐に姿を変えて逃げようとしたが、戸口に差し掛かった時に無防備に抱き上げられてしまった。
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