45人が本棚に入れています
本棚に追加
14.雪おんな(6)
連日の雪は、次第に山に住むものたちの行動をも制限するようになっていく。
狐など小さな獣は勿論、鹿も姿を見せなくなった。
「もう、何も見えんな…」
隠れ家の縁側にも雪が吹き込んでくるが、板張りの格子戸を開けその前に立ち、真っ白い雪山を見ながら柳は呟く。
「これは、雪女の仕業だろうか」
「…さあ」
藍は、室内で正座をしたまま静かに答える。
「だとしたら、先日山に入った男の想いが通じたということなのだろうか」
この吹雪が止む頃、雪女は男とともに人里に降り、所帯を持つのだろうか。しかし、かつて耳にした異形と人間との物語の、その行く末は儚いものとして伝えられる。雪女は結局、人と交わることはできないのだから。
「俺たちも同じかもしれんな。人の近くにいながら人とは交わらない」
柳が遠くの山を見ていると、白い雪の中を黒い物がゆらゆら揺れて飛んできた。
「…あれは」
柳が目を凝らして見たのは烏天狗の1人であるが、風に圧されてすでに力無い様子である。庭先に降りた烏天狗に、素早く藍は駆け寄り頬をさすった。幸いにも命に別状は無いようで、柳と藍は安堵した。
「村人を止めようとしたのですが、失態を犯しました」
申し訳ありません、と項垂れる烏天狗の羽はところどころ抜け、痛々しい。
「村人?」もしや、と柳は思う。
「先日雪女に会ったという人間の男です」
最初のコメントを投稿しよう!