14.雪おんな(6)

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14.雪おんな(6)

連日の雪は、次第に山に住むものたちの行動をも制限するようになっていく。 狐など小さな獣は勿論、鹿も姿を見せなくなった。 「もう、何も見えんな…」 隠れ家の縁側にも雪が吹き込んでくるが、板張りの格子戸を開けその前に立ち、真っ白い雪山を見ながら(りゅう)は呟く。 「これは、雪女の仕業だろうか」 「…さあ」 藍は、室内で正座をしたまま静かに答える。 「だとしたら、先日山に入った男の想いが通じたということなのだろうか」 この吹雪が止む頃、雪女は男とともに人里に降り、所帯を持つのだろうか。しかし、かつて耳にした異形と人間との物語の、その行く末は儚いものとして伝えられる。雪女は結局、人と交わることはできないのだから。 「俺たちも同じかもしれんな。人の近くにいながら人とは交わらない」 (りゅう)が遠くの山を見ていると、白い雪の中を黒い物がゆらゆら揺れて飛んできた。 「…あれは」 (りゅう)が目を凝らして見たのは烏天狗の1人であるが、風に圧されてすでに力無い様子である。庭先に降りた烏天狗に、素早く藍は駆け寄り頬をさすった。幸いにも命に別状は無いようで、(りゅう)と藍は安堵した。 「村人を止めようとしたのですが、失態を犯しました」 申し訳ありません、と項垂れる烏天狗の羽はところどころ抜け、痛々しい。 「村人?」もしや、と(りゅう)は思う。 「先日雪女に会ったという人間の男です」
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