14.雪おんな(6)

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(りゅう)は一刻も早く山に行きたい気持ちを抑え、烏天狗より話を聞いた。村にも雪はうず高く積もり、蓄えがあるものは家からは出ずにひたすら寒さを凌いでいる。そんな中、逗留している旅の男は、この降りしきる雪を見ると宿屋の止めるのも振り切り1人出ていったという。 身寄りがないとはいえ自分の宿に泊まる客の安否は気になるもので、宿の主人が天狗へ伺いを立てたのであった。 「して、男は」 「頑として行方は知れません…」 俯き首を振る烏天狗の肩に(りゅう)は手を置き、再び立ち上がった。 「(りゅう)」 藍が遅れて横に立つと、頷き共に飛び立つ。吹雪は勢いを増し羽はもげそうになるが、それでも二人は山小屋の近くへたどり着いた。戸は膝丈ほどまで雪に隠れており、勿論足跡などは見えず、男がここへたどり着いたとは到底思えなかったが、(りゅう)はそれでも雪女の痕跡を辿った。 耳をすませ、吹雪が起こす空気を切るような音を追う。 (りゅう)は、雪女に会いたいと切望していた。 雪女と、亡き父に。 「藍、頼みがある」 振り向くと、藍は黙って(りゅう)を見つめている。 「俺を1人にしてはくれぬか」 もういくらかも経たないうちに、あたりは暗くなるだろう。そして(りゅう)の羽は、辺りを覆う雪と同じ色をしている。しばしの沈黙のあと、藍は口を開いた。 「何かあれば追いかけます」 うむ、と(りゅう)は頷い、他の烏天狗を呼び藍を託した。無茶はするな、と言い残して。 (りゅう)は山小屋へ戻り、戸の外に積もった雪をよける。そして頭を屈めて中へ入った。 囲炉裏に火をくべ、あぐらをかいてじっと待つ。顎に手をやるのは、考え事をするときの(りゅう)の癖だが、今は落ちつかない自分の気持ちを抑えようと意識的に手を動かしている。 瞑目し、しばし雪の音を聞いていたが、火がはぜる音がして、ふいに冷たい風が背中を撫でた。
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