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柳は手を止め、拳を膝に置いた。
「…あら、先客でしたか」
音もなく戸があき、入ってきたのは女である。髪は束ねておらず、裸足だ。
「寒いですわね」
そのまま囲炉裏端に座った女の白い肌が、火を映して橙に染まる。柳は女に返事をした。
「寒いなら履き物をはいたらどうだ」
女はなにが可笑しいのか、ころころと笑う。その息は白くない。
「修験者さまは、お一人でしょうか。ご一緒しても宜しいかしら?」
「ああ」
柳は女を見て、にやりと笑う。
「ちょうど、雪女でもいいから相手をしてほしいと思っていたところだ」
ふふ、と女はまた笑ったが、今度は白い息が、粉雪のように舞い、床に溶けた。
だんだんと暗くなり、藍のことを考える。藍は、柳が父のことになると普段からは想像できないくらい動揺し、後先を考えない行動に出るのを知っているのだ。しかし、柳は落ち着いてかまをかけた。
目の前の女は、果たして自分から正体を言うだろうか。
囲炉裏の火が、またはぜた。
女は、顔を少し傾けて笑う。
「…昔、同じようなことを仰る修験者さまとお会いしました」
思わず柳は、腰を浮かせそうになる。しかしそのまま、続きを待った。
「そう言えばあなたは、その方に似ている…白髪とその目鼻立ち…はて、何年前のことやら」
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