45人が本棚に入れています
本棚に追加
9.後生の願い( 3 )
数日ののち、今までありがとうございました、と、拍子抜けするくらい短い挨拶とともに、凛は出ていった。
寝所に、これ幸いと狐の化生たちが押し寄せたが、九尾は人払いをして一人横になる。
九尾は、長として冷静に里を治めてきた。
だが、個の感情を押さえられるかは別だ。獣も人も、感情に突き動かされてしまうのを恐れて、理性で蓋をすることもある。
「全く、何百年も生きていてこれか」
九尾は自嘲した。
凛が好きだ。凛もそうだろう。しかし、今のままではいけないし、どうするのが最善なのか、もはやわからなかった。
理性を感情で覆すにも、九尾が重ねてきた年齢と経験が邪魔をしている。
「長生きなんて、するもんじゃないな」
凛が他の男のもとへ行ったら泣く、と自ら言ったが、娘が手元を離れた際に涙が出なかったのもまた、年を重ねてきたということなのだろうか。
逡巡し、答えは出ない。
九尾は、鮮やかな髪色と意思の強い目を思い浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!