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行灯の炎が照らした狐の尾は、綺麗な金色だ。
九尾が凛を拾った当時のことを、大天狗も覚えている。
拾った瀕死の狐が回復するまでずっと付ききりで、傷が癒えたあとはひたすら変化を教えこんだ。
変化を覚え少なからず妖力を蓄えた狐は、獣より寿命が伸びる。
幸い、凛は覚えがよかった。そして、今までずっと一緒に暮らしてきた。
「凛は、自力でここに来たんだ」
九尾が言う。
「親狐の気配も、匂いすらなかった。瀕死の子狐がただ一匹、なんの巡り合わせか山を越えて俺の里にたどり着いた」
ああ、と大天狗は頷く。
「凛は、俺が妻にするために拾ったのではない。凛が、生きるために俺を探しだしたんだ」
九尾は、ゆっくりと体を起こした。大天狗と同じ位の背丈だが、体つきはやや細く、男性にしてはしなやかな動作で胡座をかいた。
「俺は、凛を好きなんだ。強く、美しい凛が。俺の腕に収まらない自由な凛が」
垂れた目尻が、さらに下がる。
「矛盾してるか」
いや、と、友の短い言葉を受け、九尾は苦笑した。
「生きる術を身につけたあいつを敢えて手元に置いていたのは、俺の身勝手だ。従わせる権利も、従う義務も本来は、無い。男女の関係ならどうかと15で寝所に呼んだが、できなかった」
大天狗は、目を丸くした。
「九尾…お前本当にそのつもりで寝所に置いていたのか?」
「最初はな」
しかし、と九尾は俯く。
「触れても、着物を剥いでも、肩や胸に口付けても、じっとしていてな。そういう気持ちにならないようにしているのか、本当にそういう気持ちにならないのか。とにかくそんな凛のことは抱けなかった」
九尾が静かに話すのを、大天狗は無言で見ている。
「想像してるのか。言っておくが、凛は平らに近いが少しはあるぞ」
「いや、それを想像していたわけではない。多少は気になるが、うん…」
今度は、二人とも無言になるが、沈黙を破ったのは九尾だ。
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