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待たされるのは、いつものことだ。
大天狗もそれを見越して九尾のもとに来ているのだが、今日は珍しく、然程時間が経たないうちに狐の長は姿をあらわした。
「どうしたんだ?今日は早いな」
驚いて大天狗は九尾と、次いで凛を見た。
「最中じゃなかっただけです」
顔色も変えずに言う凛に対し、九尾はいや、その、と狼狽し、大天狗も黙ってしまった。
九尾は何百年、大天狗もそれなりの年齢のはずだが、この18、9にしかならない女狐の凛に、長ふたりは何も言えない。
大天狗は思考を2度3度巡らし、九尾に小声で問いかける。
「九尾よ、いつも最中の様子をこの子に見せてるのか?」
「そんなわけないだろう」
「そうですよ。たまに声が聞こえるだけです」
え?と男二人は凛に向き直ったが、凛はさらりと話を変えた。
「それより。大天狗さまの山にも出たんですか?」
凛の問いに、大天狗は袂から何かを取り出した。骨ばった手に、手拭いが握られている。よく見ると、獣の細い毛が付いていた。
「化け猫の匂いがするな」
九尾が軽く鼻を鳴らすと、大天狗も手拭いを鼻先に近づけた。
「よくわかるな。で、やっぱりそうなのか」
「ああ。お前のところの誰かが遭遇したのか?天狗相手に化け猫が踊りを披露してどうするんだ」
九尾はすでに興味が無さそうだが、凛は真剣な顔つきだ。
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