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春の草原を、2匹の獣の影が走る。
大きいほうが1本尾に対して、小さな獣の尾は3本。
「まったく…親子だなあ」
九尾は溜め息を吐いて、狐に姿を変えた妻子を眺める。
ふいっと風が巻き起こり、小さな狐は女の子に姿を変えた。
「父様!」
勢いよく抱きついてきた娘をいとおしそうに受け止め、同じく人の形に戻った妻を見た。
「たまにはあなたも一緒にどうですか?」
腰までの長い髪に、艶やかな仕草。しかし微笑を浮かべた表情は、母親のそれだ。
「いや、俺はいい…皆が驚くだろうし」
ふふ、と凛が面白そうに笑う。
「後生のお願いですよ、あなた」
「お前はいつもそれだな」
九尾は、苦笑して言った。
気の強い妻には、何百年生きている化生も頭が上がらない。
後生か。
自分が生きている時間は、獣たちの寿命の何十倍、いや、それ以上の長さだ。
凛と過ごせるのも、あとわずかだということも、それこそ、九尾には何故かわかっていた。
「後生です、九尾様」
笑いながら、凛は九尾の隣に座る。
「お前も、わかるのか」
「はい。これでも長く生きたほうだと思います。元はただの狐ですから」
そうか。そう呟いた九尾の顔は、すでに泣きそうだ。
不思議そうな顔で、姫が父の頭を撫でる。
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