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「ううっ…」
嗚咽を漏らす夫を、凛はあきれ顔で見た。
「いい年して、本当にもう…」
「だってなあ…ううっ」
「どうせ私がいなくなったら、また他の女を囲うんでしょうに」
反論できずに黙る九尾だが、凛の眼差しは責めるものではなく、むしろ安堵しているようだ。
「九尾様」
静かに、お互い視線を交わす。
「私は生に執着はありません。あなたと添い遂げるなんて無謀な望みも、そもそも抱いていません」
母が伸ばした手を握り、姫は両親の間で笑顔になる。
「いつになるかわからないけど、後生ではあなたと同じ時間を生きたい。短くても、儚くても、残された者が悲しみにとらわれないように」
猫が、踊る。
迎え火が町を、村を彩る。
それは、この世を去った者を想う未練の現れだ。
「あまり泣かれると、私が迷いますから。泣かないでくださいね」
凛は、笑った。
「後生の、お願いですよ」
後生の願い・了
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