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真夜中、山あいにいくつか、灯りが見える。
凛は、離れの自室からそれを見ていた。
3年前までは、凛も九尾の隣で一緒に鬼火とも狐火とも呼ばれるそれを眺めていたことを思い出す。
夏だからな。
そう言った九尾は少し悲しげだった。
凛は、狐に姿を変えた。
九尾や自分が住む屋敷の広い庭を、気ままに走る。
すでに事を終えて相手を帰した九尾が、寝所の窓からその様子を見ていた。
月明かりが照らす狐の毛並みは、美しい。
視線を感じた凛が、人の姿になった。
「狐のままで、いいのに」
優しく、九尾が笑う。
「いえ…」
いたずらが見つかった子供のような表情を浮かべ、凛が寝所がある方を見上げる。
その足元を、影がかすめた。
「…凛」
九尾が眉を潜めてもう一度、今度はやや強く庭に向かって声を掛けると、凛は小首を傾げ、今しがた風が乱した着物の裾を整えてから、屋敷の中に入ってきた。
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