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「それで、伊太がのっぺらぼうを、退治するのか?」
縫が、伊太を見上げながら呆れたように言った。
振り向いた勢いにつられて、一つに束ねた黒髪がするりと弧を描く。烏の羽と同じ色をした、つややかな長い髪だ。
幼なじみからすると、伊太の人の良さは、単に要領が悪いだけに見える。
現に、長の言い付けに適当な言い訳をすることもできず、腕試しにもならない上に、女を手にかける気まずさしかない任務を任されることになった彼は、端からは貧乏くじを引いたようにしか見えなかった。
伊太は、先ほどまで座っていた枝からひらりと飛び降りると、立ったまま軽く首を回した。
「退治とまではいかないだろうな。俺らの目のとどくところから、いなくなればそれでいい」
どこまでも善良な幼なじみの物言いに、縫はため息をついた。
「確かに、人を驚かすだけの化け物をやたらに攻撃する必要もないだろうけど。けど…」
まあまあ、と、興奮気味の妹分を、こちらは穏やかに制す。
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