11.山伏と紅(1)

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もののけが出没するのはだいたい何どき、と相場が決まっており、のっぺらぼうが出るのは橋のたもとだという話ではあるが、毎日きっちりと現れるわけではない。 そんな物騒な夜に、町人がただ一人ふらふらと歩くのは余計に怪しい。 そのため、誰かに見られても男女の逢い引きを装えるよう、伊太(いた)(ぬい)に同行を頼んだのだ。 「…私が相手じゃあ、釣り合いが良くないだろう」 高下駄を脱いでも、二人とも草履では同じことだ。普段このように並んで歩くことはないので、真横に惚れた男の顔があるのが落ち着かない。 「別に関係ないだろう。本当の恋人ではあるまいし」 不意にこちらを振り向かれ、驚いてしまった。伊太がそれをみて、ははっ、と笑う。 「それよりな、やはり縫は紅をさしたほうが良い。よく似合う」 幼なじみとして、仲間として、それ以上の意味を持たない口振りでなんとも心を揺さぶることを言う伊太を、縫は、ずるいと思った。 日が暮れ、あたりは闇。 もののけは出ず、1日目は、任務も女心も空振りに終わった。
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