11.山伏と紅(2)

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この山伏は、あちこちを放浪しているのだと聞いた。天狗の山の神気にもあてられず飄々と過ごす彼は、人が入り込まない奥地での修行を常としているのだろう。 そのような生活では行く先々でもののけに遭遇するのは必然と思え、またこうして烏天狗とも平然と話をしているということは、今までに命を脅かさんと近寄るもののけを、見事に退治してきたということかもしれぬ。 「ほんに、いろんなやつがおった。獣や、植物の精。河童や(ぬえ)もいた。ときたま、こちらの考えを読むものもおったが、あれは手強かった」 これがその時の傷やもしれんな、と、からからと笑いながら一際大きな傷をさする。苦戦した様子すら懐かしい思い出のように話す山伏に、伊太(いた)は素直に感心した。 「伊太こそ」 そんな烏天狗に山伏は苦笑する。 「烏天狗なのに、もののけを退治するおれに、普通に接するのじゃな」 ああ、と伊太も笑った。 「山伏からは、殺気は感じられなかった。もののけとはいえど無闇に殺めているわけではないのだろう。お前はいいやつだ」 人のよさそうな顔だが、さらに目がなくなるくらいの笑顔になる。
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