9.後生の願い ( 1 )

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凛が九尾の寝所に着いたとき、今宵相手をしていたらしき者はまだ部屋の外にいた。 九尾に早々と退室を促され、未練がましくとどまっていたらしい。 そして、凛に向かって化け狐特有の色気と迫力がある睨みを利かせ、勢いよく去っていった。 「あれも美人だけど、気が強いのがなあ」 半裸で立ったまま顎に手をやり、まるで悩んでいないふうに呟く九尾を見て、はあ、と凛は溜め息を吐いた。 「なぜ身の回りの世話に私を置くんですか…もっと隅から隅まで世話をしたがる者は沢山いるでしょうし、私が睨まれる筋合いはありません」 凛は心底嫌そうに話すが、九尾は意に介さない。 「お前が一番俺の近くにいるからな。他の女から嫉妬されるのは、諦めろ。拾ったほんの子供の頃から、ゆくゆく美人になると思っていたし、俺の目に狂いはなかった。ただ」 そう言って、九尾は凛の胸を着物の上から撫でる。 「これだけは予想外…」 凛は呆れて、九尾の手を払いのける。 「この里の方々は皆豊かなお体をお持ちですからね。他里の狐が平らだなんてご存知なかったんでしょう?」 皮肉はなく、はっきりした物言いに、九尾は笑う。 里の入り口は、里のもの以外には見えない。 しかし、まだ小さな狐だった凛は、瀕死の状態でそこに体を横たえていた。 その頃、いくつか向こうの町で「もののけ」が起こしたという騒ぎがあり、山の狐や狸が片っ端から人間に狩られた話は、九尾の耳にも入っていた。 理不尽だ。 そう思ったが、どうすることもできなかったし、そもそもどうする気も無い。しかし、この狐を見捨てる道理はなく、連れて帰った。
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