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凛が九尾の寝所に着いたとき、今宵相手をしていたらしき者はまだ部屋の外にいた。
九尾に早々と退室を促され、未練がましくとどまっていたらしい。
そして、凛に向かって化け狐特有の色気と迫力がある睨みを利かせ、勢いよく去っていった。
「あれも美人だけど、気が強いのがなあ」
半裸で立ったまま顎に手をやり、まるで悩んでいないふうに呟く九尾を見て、はあ、と凛は溜め息を吐いた。
「なぜ身の回りの世話に私を置くんですか…もっと隅から隅まで世話をしたがる者は沢山いるでしょうし、私が睨まれる筋合いはありません」
凛は心底嫌そうに話すが、九尾は意に介さない。
「お前が一番俺の近くにいるからな。他の女から嫉妬されるのは、諦めろ。拾ったほんの子供の頃から、ゆくゆく美人になると思っていたし、俺の目に狂いはなかった。ただ」
そう言って、九尾は凛の胸を着物の上から撫でる。
「これだけは予想外…」
凛は呆れて、九尾の手を払いのける。
「この里の方々は皆豊かなお体をお持ちですからね。他里の狐が平らだなんてご存知なかったんでしょう?」
皮肉はなく、はっきりした物言いに、九尾は笑う。
里の入り口は、里のもの以外には見えない。
しかし、まだ小さな狐だった凛は、瀕死の状態でそこに体を横たえていた。
その頃、いくつか向こうの町で「もののけ」が起こしたという騒ぎがあり、山の狐や狸が片っ端から人間に狩られた話は、九尾の耳にも入っていた。
理不尽だ。
そう思ったが、どうすることもできなかったし、そもそもどうする気も無い。しかし、この狐を見捨てる道理はなく、連れて帰った。
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