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「凛は、昔からそうだな。俺に対して遠慮がない」
「遠慮はしていますよ。閨事の時には、寄らないようにしています」
はは、と笑って九尾が手を伸ばすと、しなやかな動作で、凛はその手が届くところまで進んだ。
九尾は、着物に指をかけて肩から滑らせる。されるがままに立っていた凛は、すぐに、一糸まとわぬ姿になった。
「相変わらず上手に化けているな。それこそ他里の者とは思えぬ」
「九尾様が教えて下さったのでしょう?」
ごく自然な動作で九尾は寝台に凛を引き寄せ、凛もそこに仰向けに体を横たえた。
大きな手が、白い肌をゆっくりと撫でる。
指が、ささやかに膨らんでいる胸をなぞったが、凛は黙ったままだ。
そのまま、腹を、腰を、腿から足先まで手を滑らせ、ふい、と九尾は体を起こす。
凛に着物を渡し、自身も無造作に前を合わせた。
「もう、18になるか」
「はい」
「よく、持ちこたえたよな」
「ええ」
淡々とした物言いだ。九尾も普段は、拾った他里の狐に、わざわざ変化を教えることなど無い。しかしそうしなければ、虫の息だった子狐は、普通の獣としてあっという間にこの世を去っただろう。
九尾は、弱っていてもなお艶やかだった狐の毛並みを思い出す。
幸い、命が尽きる前に少なからず妖力を得た凛は、獣の寿命を越えた年月を九尾と共にしてきた。
娘として。
「平らな胸がお好みじゃないなら、よそへ出して頂いて構わないんですよ」
からかうように凛が言うと、九尾がとぼけたように返す。
「俺が、お前を手放すわけがないだろう」
はいはい、と寝台を整えながら凛は返事をする。
「娘として大事に育てて頂いて、感謝しています」
「ああ、自慢の娘だ」
幼い頃は、本当に娘のように寝食をともにしてきた。15で、改めて世話係を言い付けてからも、関係は何一つ変わらない。
すらりとした愛娘の後ろ姿を、九尾はじっと見つめていた。
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