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「大天狗様」
会話が一段落するのを待っていたかのように、村を巡回していた烏天狗が庭先から声をかけてきた。
大天狗が顔を向けると、さっと頭を下げる。長に対する条件反射みたいなものだ。
「なんだ」
「化け猫の素性がわかりました」
お、と九尾も、小さな天狗を母親の胸に返し、首を回した。
「どうやら、もとは町にいた飼い猫のようです。飼い主は少し前に流行り病で亡くなっており、同居の猫にうつっているのではと近所や親戚から処分されそうになったようで」
ふむ、と続きを促す大天狗だが、九尾は巡回役の顔を見ていない。
「処分を免れ逃げた猫が、化け猫となり夜な夜な出没しているようです」
そうか、と大天狗は頷いた。
「なぜ村にいたんだ」
「その飼い主は元々は村の出身だったそうです」
「わかったような、わからないような感じだが、とにかく実害は無くとも止めさせなくてはならないな」
頷きかけた巡回役が、何か思い出したように、あ、と声をあげた。
「なんだ。まだ何かあるのか」
「実害は、神隠しのほうが。子供が数人、いなくなっています」
子供が、と大天狗の妻も険しい表情になる。
話によると、あちこちで不穏な影がうろうろしているらしく、影が子供を飲み込んだと思ったら消えてしまった、と半狂乱で父親が叫んでいたのを耳にしたらしい。
「盆が近いからな。迎え火が、影を呼ぶ」
九尾が呟いた。
盆に迎え火を焚くのは、人間の習慣だ。
あの世に行った親しい者を、わずかな時間、呼び寄せる。
火を目印に。
野菜の馬に乗って来い。
さすれば束の間の再会を。
そして、一緒に。
「悪いものでないなら、我らがどうするものではないが…。念のため、猫の件と併せて、町と村を見張れ」
長の命令に、御意、と頭を下げた巡回役の懐から、何かが見えた。
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