13.やきもち(5)

2/7
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/127ページ
最初に人の姿で沢山のお伴に守られるようにしてきた姫はとても可愛くて、愛情を受けて育ったのがよくわかった。 「同じ一族でもないのに、あなたにもそう言われて…それで良いのかなって。何かしたいけど、何をしたらいいかわからないんです。そして頭は固くなると体も強張って…」 声の調子が落ちるのにつれ、耳が垂れる。 「そもそも、胸は無いからそちらはご希望に添えないかなと思って…」 「あ、いやそれはもう諦めたから…」 ぴかりと、室内なのに稲光が見え、鬼は動きを止める。宥めたつもりだったが、微妙に癇に障ったようだ。 「…鬼殿は、私に一番何をおのぞみですか?」 姫が、伏し目がちで静かに話す。小柄で垂れ目、童顔だが、妙に色っぽいのは九尾の娘だからか、それとも九尾の心を射止めた母譲りか。 知らず、鬼は生唾を飲み込む。 「…姫」 突然、口を塞がれた。姫が抱きつき、口づけてきたのだ。 小柄な姫が飛び乗ってきたので、鬼は勢いあまってそのまま倒れるが、その胸元に姫の手が押し付けられる。 「姫…」 「おにどの…」 姫は妖艶な笑みを浮かべ、潤んだ瞳で鬼を見下ろし、舌で自分の唇を舐める。その手に、力がこもるのがわかった。 「姫…俺は獲物じゃないぞ…」 平常心を保とうとしながらも無防備にはだけた姫の襟元を見て、鬼が、やっぱり胸がないななどと思っていると、ぱたりと姫は鬼の上に倒れた。 すぐに子供のような寝息が聞こえてくる。鬼は手を伸ばし、先ほど姫に出してやった椀を持つと、中身は空だが、かすかに酒の匂いがした。鬼は、囲炉裏端に置いた瓢箪を見る。 「…飲んだのか。酒に弱いのは知らなかった…」 あー、と鬼は寝てる姫の下で身動きできないまま、小さく叫んだ。
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!