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14.雪おんな(1)
幼い藍は、雪女を見たことが無かった。
数年、また数十年ごとに巡ってくる雪の多い冬に、雪女は山の奥から降りてくる。なぜわざわざ降りてくるのか、と藍は吹雪を避けるために身を潜めている、山の横穴の中で柳に聞いた。
「さあな。寒いから人恋しいのかもな」
「ひとこいしい?」
「誰かとくっついて、温まりたいってことだよ」
寒風が吹きこみ、小さな烏天狗は、自分の修験者装束の衿を合わせた。
藍より7つ年上の柳は、いずれ一族をまとめるために小さい頃から厳しく育てられていた。白い、耳が隠れるほどの髪は風に煽られ平素より無造作に乱れており、藍の豊かな肩まである黒髪とは対照的だ。
15才で既に達観した物言いをする修験者姿の柳の手を、8才の藍は優しくさする。まだ体の線は細く少年のようなのに、手は力強く節くれて、しかし寒風に当たり赤くなっていた。
「もう寒くない?」
柳は笑う。普段きりっとした目元がなくなるくらい柔和な表情をするのは、藍といるときくらいだ。すでに背丈は6尺に届くほどの柳が見下ろすと、胸より下に、藍の心配そうな顔が見えた。
大丈夫、と礼を言い、柳はこの、幼い同士の頭を撫でる。
「藍、気をつけろ。そろそろ雪が激しくなる」
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