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10.小豆と小鬼
しょきしょき。
軽快な音が、夕暮れ時の川原に響く。
草原を覆う景色は、昼の白さから夕日を映して橙に変わった。そんな叙情的な景色には似つかわしくない、軽やかで、本来聞こえるはずのない不穏な音だ。
しょきしょき、しょき。
ざざっと、水に半分浸けたざるの中で、あずきが泳いだ。
「なあ、おれにもやらせて」
目を輝かせて言うのは、赤い髪をした十歳くらいの着物姿の子供。頭には、ささやかに二本の角が生えている。にかっ、と人懐こく笑った口元から、鋭い八重歯が覗いた。
鬼の子は、川に手を入れた。
「冷たくないの?」
しょき、しょき。
「なあ、なあ」
しょきしょきしょきしょき。
「なあなあなあなあ」
ざっ。
あずきの音が止み、代わりに、はあっと深いため息の音。
「お前…隣の山にいる小鬼だろ。俺のことは、知ってるよな?」
「うん。最近小豆を洗うじいちゃんが川に出るって、大天狗が言ってた」
はああ、と、小豆洗いはもう一度深いため息をつく。
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