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13.やきもち(3)
数日ののち、天狗と烏天狗が鬼の元へ様子伺いにやってくると、小屋にいたのは鬼一人だった。
「…どうしたらいい?」
どうやら昨夜も枕を共にすることは叶わなかったらしく、真剣な表情で天狗に助けを求める。
「知るか」
子供みたいに口を尖らす鬼を、天狗は呆れて見る。朝食は食べたというので、烏天狗がお茶を煎れて差し出した。
「姫は?」
「散歩したいって、出て行った」
鬼は、天狗が持ってきた菓子をうまそうに頬張る。小屋の中はきれいに片付き、開け放した戸口から通る風が心地よい。
「お前を怖がってるわけじゃないだろう。むしろ仲良くなりたいだろうが…」
天狗は、ちらと窓の外を見る。山の中には様々な妖怪や木々の精がおり、鬼は正体を知ってか知らずか、女に化けたものたちとしょっちゅう懇ろになっていたが、さすがに狐の末姫に惚れてからは、うかつなことはしなくなっている。
そのはずだが、やはり山の空気はざわついているようだ。
「浮気したか?」
ひらりと窓から舞い込む木の葉を手に取り、天狗は言う。
「するわけないだろ…。何回か何人か来たから、ちょっと話したりはしたけど…」
何回、何人というのが鬼らしいなと思ったが、天狗はそこには突っ込まずに話を続けた。
「姫は、お前の昔の女にやきもち焼いてるんだろ?中途半端に良い顔をしてるんじゃないのか」
「そんなことは無いんだけど、なあ…」
そこで鬼は、自分の赤い髪をかきむしった。
「今までこんな焦らされたことが無いからわかんねえんだよ…」
「…なるほど」
天狗はとりあえず相づちは打ったが、助言のしようがない。確かに鬼のもとへは自分から誘わずとも次から次へと女がやってくる。しかも男慣れしたようなものばかりだ。
そんな鬼が唯一執着を見せたのが、狐の末姫なのだ。友人には幸せになってほしいが、色恋沙汰に関しては無闇に外野がでしゃばるとろくな結果にならないのは、天狗も身の回りを見て実感している。
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