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13.やきもち(5)
日が完全に落ちる前に、鬼は小屋に戻り灯りをともした。
狐を静かに下ろして、椀に水を入れてやった。喉が渇いていたのか、勢いよく飲み始める。
鬼は慣れた手つきで囲炉裏に火をくべ、鉤に吊るした鍋で湯を沸かす。
「餅を焼くか?」
言ったそばから、鬼は火箸を器用に使って餅を灰に入れていく。
え?という声が聞こえたと思ったら、先ほどまで狐がいたところに、姫が座っていた。
「灰に入れるんですか?」
「美味いぞ」
鬼は八重歯を見せて笑い、姫も耳をぱたぱたとさせて身を乗り出し、囲炉裏の中を、そして手際よく作業をする鬼をみる。瓢箪から酒を飲みながら上機嫌で話す鬼の姿は、一緒に暮らしてから毎日見ていても飽きないのだ。
「おかえり」
目を細め、鬼は姫を見た。
姫は、座ったままゆっくりと鬼ににじりより、そのまま止まる。
「なんで尾の数を変えているのにわかったんですか?里の者にもほとんど気づかれないのに…」
「わからないと思った?」
「…わかると思ってましたけど…」
そこまで姫が言い、二人で揃って笑いだした。
「俺が怖い?」
ふるふる、と姫は首を振る。耳と尾も一緒にゆれるのがなんとも可愛くて鬼は笑った。
「じゃあ、妬いてんの?」
「…わかりません」
「ん?」
鬼は沸いた湯に野菜をいれたり、火箸で灰をつついたりしながら、優しく相づちをうつ。
ええと、と姫は言葉を選びながらゆっくりと話し出した。
「里にいたときから父や他の者にとても大事にしてもらって。力も弱いけど構わない、と、元気で、そばにいたらいい、と。それは母がもういないせいもあるかと思ってました…でも」
うん、と鬼は頷く。
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