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14~18話
14話 呪いの樹
呪いの樹があると噂の廃屋にやってきた。
庭のある日本らしい和風の家だ。
縁側に腰を下ろして水を飲む。木など見当たらない。
しばらくボーとしていると夜闇に何やら蠢くものが映る。
よく目を凝らすとそれは地を這う人間だった。
それらは庭の中央に集まって重なり合いやがて一本の木のようになった。
真黒な樹が耳障りな声で鳴く。苦痛に満ちたあまりにも悍ましい声で。
足がすくんで動けない。
どうすることもできずに私はその場で悲鳴を上げ続けた。
15話 川
私の地元には大きな川がある。
夏になると観光客でにぎわうが夜になるまでには帰っていく。
それは川の上流にかかっている橋が自殺の名所だからだ。
夜な夜な飛び降りた自殺者たちが下流へと流れていく。
死体の上には必ず子供が乗っており、楽しうに歪な船をどこかに運ぶ。
だからあの橋から飛んだ人間は見つかることはない。
今日も楽しそうな子どものはしゃぐ声が聞こえる。
私は彼らが見えなくなるまで静かな川をじっと見ていた。
16話 深夜バス
最終バスにギリギリ間に合った。息を切らしながら運転手の真後ろの席に座る。バスの乗客は自分と後部座席の2人だ。
しかし2人とも幽霊だ。
女は溺死、男は轢死したのだろう。ボロボロの見た目の彼らは睨み合っている。ぶつぶつとお互いに恨み言を言い合い続け、結局自分の降りる停車駅まで喋り続けていた。
お盆だなと思いながら2人とは目を合わさないようにしてバスを降りた。
17話 夢の中で
これは私が良く見る夢の話だ。
目の前に和服の男がいる。
彼と私の間には私の好物の一品料理が置かれていて、私と男は無言で食べていく。
交互に一口ずつ食べ進めてやがて料理がなくなると男は満足そうにこう告げる。
「今度は酒を持って来いよぉ」
その一言で必ず私は目を覚ます。そして夢の食事の味を思い出しながら、満腹感にしばらく浸る。
男が誰だかは知らないがあんまり頻繁に夢に出るので親近感すら覚えていた。
できれば酒を持っていきたいがどう頑張っても無理なので、夢を見た時はとりあえず起き抜けに一杯、酒を飲むようにしている。
18話 ベランダ
夕陽を見ている。
暗い空と地平線を彩るオレンジのグラデーションが綺麗だ。
その夕陽の中に一輪の花がぽっかりと浮かぶ。水の入ったコップに生けられたそれは入居当時からあったものだ。
この生け花をベランダから動かさないことと毎日夕方までに花を生けることを条件にかなり条件のいい部屋を破格で借りられている。
最初は邪魔くさいルールだと思ったが今は慣れてしまった。
ぼんやりしているとふと視界の端に人の首が映る。
異様に手足の長い人だ。性別は解からない。そいつは大きな歯をガチガチいわせながらベランダを這って、手すりに置いてあるコップから花を口で引き抜いた。
ギュリギュリギュリ・・・。
歯を擦り合わせる嫌な音。化け物は花を吐き出すと、しばらくしてドシャッと重いものが地面に落ちる音がした。
そしてこちらを見向きもせず、上層階へ這って行く。
今日も守られた、そう思いながら代わりの花を手に持ち私はベランダへと向かった。
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