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午前中の記憶はほとんど無い。
授業中に指名され、相変わらず立ち上がったものの答えられずにいるのを、友人たちが笑っていた気がするが、いつも通りに「わかりません」と着席してやり過ごしたのだろう。
音楽の授業で、少し難しい何小節かを、上手な人と下手な人を何人かずつ選んで順に歌わせ、下手なグループの一人として歌わされてしまっている、確かに決して上手くは無い彼女の歌声だけが耳に届くのを、一体僕はどういう感情で受け止めていただろう。
「比較してわかりやすくするためとか言っても、下手な人を名指しで歌わせるのはパワハラっしょー」
教室に戻り弁当を広げたもののとても箸を付ける気にもなれず、ぼんやりときんぴらごぼうのゴマとトウガラシの粒々感を眺めていると、背後で彼女の声がして、動く空気の中に彼女の匂いがした。
そしてそのまま部活の昼練に向かうであろう見えない彼女の足音は、教室の外へと走り去って行った。
意図せず何か泣きそうになってきたのをぐっとこらえながら手付かずの弁当をしまい、とにかくいったん一人になって頭を整理したくて、誰かに話し掛けられる前にトイレへと駆け、個室に入り鍵をかけた。
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