ニ.目を疑う

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見えない、彼女が見えない。 でも確かにいつも通りに彼女は存在している。 だからやっぱりおかしいのは自分の目の方。 見えないのは彼女自身だけじゃない。 彼女の机も椅子も、制服も弓道の道具も見えない。 つまり彼女と一体となっている、彼女に深く関わる物も一緒に見えなくなっている。 僕が彼女や彼女を連想する物の一切を見ないように。 何がどうなって、どうしてこんな。 やっぱり昨日のあいつが。 あいつが僕の目に何かした。 一体何を? あいつはどこに行った? あいつは何なんだ? どうやったら治る? あいつは治せるのか? せめて治し方を。 あいつはどこだ? 早く帰らなきゃ、あいつを探さなきゃ。 「どうだ?余計なものを見ないで済んで、余計なことをしないで済んで、なかなか効率的でいい生活だろ」 狭い個室内に立つ僕の真後ろからふいにあの尖った声がして、僕はまた両手を握り合わせて飛び上がるほど驚き、便座の端に右足のスネを強打した。
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