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見えない、彼女が見えない。
でも確かにいつも通りに彼女は存在している。
だからやっぱりおかしいのは自分の目の方。
見えないのは彼女自身だけじゃない。
彼女の机も椅子も、制服も弓道の道具も見えない。
つまり彼女と一体となっている、彼女に深く関わる物も一緒に見えなくなっている。
僕が彼女や彼女を連想する物の一切を見ないように。
何がどうなって、どうしてこんな。
やっぱり昨日のあいつが。
あいつが僕の目に何かした。
一体何を?
あいつはどこに行った?
あいつは何なんだ?
どうやったら治る?
あいつは治せるのか?
せめて治し方を。
あいつはどこだ?
早く帰らなきゃ、あいつを探さなきゃ。
「どうだ?余計なものを見ないで済んで、余計なことをしないで済んで、なかなか効率的でいい生活だろ」
狭い個室内に立つ僕の真後ろからふいにあの尖った声がして、僕はまた両手を握り合わせて飛び上がるほど驚き、便座の端に右足のスネを強打した。
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