一.目をそらす

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数秒数えてから再びそっと彼女に目を向けると、彼女は、当然ながら僕になど見向きもせずに、長い弓を抱え直しながら窓の外の景色を見詰めている。 そんなことを十五分ほど繰り返しているとやがて学校に最寄りの駅に着き、人並みに隠れながら、一定の距離を取り、しかし決してその背を見失わないように歩速を調節しつつ、改札を出て徒歩五分の道のりを忍び行く。 信号で追い付きそうになれば極めてゆっくりと、彼女が走り出せば僕も早足で。 彼女が何かを落とし、拾い上げる動作の中で一瞬後ろを振り返ったりした時は、壁際に身を隠しながら慌てて目をそらす。 校門付近で彼女は友人の女子たちと合流して、長い黒髪をかき上げながら楽しそうに笑い、僕はその顔が眩し過ぎて目をそらす。 校舎のエントランスで上履きに履き替える彼女の、決して短くは無いスカートからも一瞬あらわに覗く太ももに、彼女をそんないやらしい気持ちで見てはいけないと目をそらす。 同じクラスの軽い感じの男子が彼女に声をかけ、嫉妬のような羨望のような感情に襲われ、無意識に小さく歯噛みしながら目をそらす。 部活の友人たちと弓道場へ向かう彼女とは反対方向の教室へ、気付かれないように何度か振り返りつつも、しかしながら窓の外に見える弓道場ですべてを兼ね備えたみたいな男の先輩が見事に的の中心を射抜く姿に、 あいつなら当然彼女とも普通に接点あるんだろうな、彼女もどうせああいうのが好きなんだろうなと、 卑屈になりかけて目をそらす。
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