一.目をそらす

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まだ誰もいない教室の自分の席で萌え萌えしたイラストなどを描いていると、やがて一人二人と登校し始め、オタク仲間も集い出し、昨晩のアニメの話で盛り上がりながらそこに登場するキャラの絵を僕が描き、 もっとエロいの描けよ、 教室で描けるかよ、 などと小突き合っていると教室に彼女が現れ、 また昼休みな、 とスケッチブックを机にしまいながら、下敷きでシャツの胸元を扇いでいる彼女から慌てて目をそらす。 文系科目以外は中の下という成績の僕が、数学や理系で指名され、立ち上がったものの答えられずにいるのを友人たちが笑い、彼女もその輪に加わりこちらを見て笑っている気がして、 やっぱりわかりません! などと言って席に着きながら、うつむいて目をそらす。 体操着の彼女が見事なフォームで高跳びをクリアしているのを、校庭の対岸で走り幅跳びの順番待ちをしながら確認するが、どうせ彼女は僕を見てなどいないと思いながらも、何か爪痕を残したくて、意外にも苦手では無いこの競技でクラストップを取ったらもしかして何か得るものがあるかも知れないと、本気モード、とか頭の中でつぶやきながら正面の砂場へと目をそらす。 しょせん毎日部活でやってるプロの陸上部に叶うはずもなく、無難な記録で友人からもいじられることも無いまま、教室に戻り弁当を広げ、昼休みにも部活の練習のある彼女が大急ぎでパンをかじりながら僕の背後のロッカーから荷物を引っ張り出し、その時ふわりと漂ってきた空気がまぁまぁ汗臭くて、 いや、彼女が汗臭いんじゃなく、これは俺の体育後の臭みだ、 などと目をそらす。
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