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彼女が……見えなくなる……?
毎日毎日、何度も何度も彼女を遠くから見詰め、気付かれないよう目をそらす、この行為はもはや生活の一部として当然のようになっていて、それが消えることなど考えたことも無かった。
「ほら、今お前、どっちかというとあの女が消えることじゃなくて自分の生活のルーチンが消えるってことの方を考えただろ。じゃあもういいんじゃねぇの?そんなルーチン超無駄だしさ、お前の視界からあの女が消えれば、お前もっと有意義に有効に自分の人生生きられるぜ」
違う、そうじゃない……僕は彼女を……!
っていうかこいつは何を言ってるんだ?
こいつ何なんだ?
お前、お前は一体……、
「おま……」
なんなんだよ、と問うべく振り返りざまに必死に声を絞り出そうとしたが、それよりも早く少年は帽子のつばを片手でそっと上げ、僕の目を正面から真っ直ぐに見据えた。
少年の目は、真夜中の闇よりも暗く、真夏の太陽よりも眩しく、吸い込まれるような、視線で心臓を貫かれるかのような、絶対に断言できる、決して人間では無い何かのものだった。
そして僕は気を失ったらしく、夕食に呼びに来た母に起こされて目を覚ました。
驚き飛び起きて部屋を見回したが少年の姿は無く、自分の体にも視界にも特に何の異常も無く、あれは妄想癖の強い自分の白昼夢だったのでは無いかと、怯えながらもほっとして、部屋を出た。
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